【H-AIR往復書簡】01|是恒さくら→谷口千春さんへ
|往復書簡について|
ひろしまアーティスト・イン・レジデンス in「ひろしまアニメーションシーズン2022」にて、2022年5月1日〜9月25日までminagartenに滞在中の美術家・是恒さくらとミナガルテン代表・谷口千春による往復書簡です。是恒はminagartenに滞在する日々の中での気づきを、谷口はレジデンスの受け入れ側として、二人の視点を交換していきます。
谷口千春さま
5月1日からミナガルテンの裏手のマンションの一室に住みながら、国際アニメーション映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」によるアーティスト・イン・レジデンスを始めました。同じ広島県内の呉市音戸町出身の私ですが、皆賀はこれまで訪れることの無かった土地でした。子供の頃、年に一度だけ家族で訪れていた厳島が目の前に見えることは、ここに来て最初の驚きでした。
レジデンス開始から1週間が経ち、少しずつこの土地の風景が自分に馴染んでくると、点と点が結ばれていくように、目に映るもの、出会うものの一つ一つの発見が連なっていきます。
皆賀は元々「水長」と書かれ、山からの水が滞留する土地だったという話から、近くを流れる八幡川の水の行先が気になって海まで下ってみました。河口では鳥たちの楽園のような干潟が広がっていました。干潟で見た鳥の種類について『八幡川野鳥ガイドブック』で調べてみると、水に潜って餌を探していた黒い体の「カワウ」の紹介がありました。カワウは、八幡川の河口から見える海上に浮かぶ丸みを帯びた無人島・津久根島をねぐらにしているらしいのです。津久根島が気になって調べてみると、「あまんじゃく伝説」が見つかりました。伝説の中で津久根島と対になるのが海老山。五日市駅の海側にある小山です。その麓から海へ、その先の厳島へ続いていくように塩屋神社とその鳥居があります。ミナガルテンを出発点に、この土地を巡り、出会う場所一つ一つについて知っていく。そうすると、広い視点で見渡すように、この土地の物語がつながってくるのです。
私はこれまで、国内では東北から北海道各地、国外ではアメリカのアラスカ州やニューヨーク州を訪れ、その土地で暮らす人たちが見てきた風景や語り継がれてきた物語を聞きながら、自分の中に芽生えたイメージを作品にしてきました。ある土地の歴史を知り、そこで語られてきた物語を知ることは、自分一人の視点や時間を超えた、より広い眼差しでその土地を俯瞰することなのだと思います。
ミナガルテンに滞在して4日目は「ミナバタケ」の畑作業にも参加しました。その日はグリーンピース、絹さや、ラディッシュが収穫時で、小松菜と水菜の間引きもしました。新鮮な野菜はその後何日も、私の食卓を彩ってくれています。春だからこそ味わえる採れたてのグリーンピースを頬張りながら、私が今回のレジデンスを始める前から続いていた畑の時間のことを思いました。土を耕し種を蒔き、水やりをしてミナバタケを豊かにしてきた谷口佐千子さんと畑に参加する人たちがいて、私も美味しい野菜のお裾分けをいただいていること。ミナガルテンで過ぎていく時間は、さまざまな人たちが交差しながら、豊かな水が大海に注ぐように進んでいくと感じます。
レジデンスでは、まずはこの土地と海を知っていくことから始めています。日々豊かな刺激を受けていて、これから制作する作品にも、この土地で見たもの・知ったことがたくさん含まれてくるでしょう。
2022.5.7 是恒さくら